呪い舟

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   江戸は深川に在る呉服問屋の二代目、鶴屋亀吉は放蕩三昧(ほうとうざんまい)。女癖が悪かった。  その夜も、町で拾った女を伴っていた。  逢瀬に利用するのは、軒を並べた茶屋の前に浮かんだ屋形船だ。  いつもの船頭にそれ相当の金子(きんす)を握らせると、岸から離させた。  そうすりゃ、野中の一軒家同然に、誰に(はばか)る事なく大人同士の営みを満喫出来るってぇ寸法だ。  船頭はその間、煙管(キセル)片手に、お月見だ。  いい具合に舟が揺れるもんだから、つい、うとうとなんて事もあるわけで、これが本当の“白河夜船(しらかわよぶね)”だな。
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