妄想ギャンブル【ライブベット】にようこそ。

9/12
前へ
/12ページ
次へ
ヤスはトイレの鏡で自分をじっと見つめていた。 前腕を見られそうになったときのあの遠い目。 『お前、何、俺のこと気にしてるんだ?』 ヤスの声には怒りが込められている。 鏡からヒデへ目だけを移し、 首も動かさず、横眼だけでヒデを見ている。 『え?別に同期として自然に気になったことを 気になった、と言っただけだけどな。』 『余計な詮索をするんじゃねえよ。』 あ?人情ってもんで心配した、 だけとは言えないが、 人間として自然の行為だった。 その不自然さで、 ヒデにもヤスの怒りが伝染した。 『これぐらいのことを言って、 どうしてそんな目で見られなくちゃなんないんだ、え?』 ヒデとヤス、お互いに目が合うと、 一歩も引かない状態になった。 このままだと、胸ぐらの掴み合いになる。 いつもなら、ケンカしてやろうという感情だ。 だが、ヤスの残忍な妄想を一瞬、 頭でイメージした途端、冷めてしまった。 『とにかく、俺のことは気にするな。』 ヤスがトイレを出ていく。 コイツの妄想の1割も知ることはできなかった。 ただ、ヤスには人には言えない秘密がある、 それがわかっただけで、つかの間の安心を得た。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加