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ヤスはトイレの鏡で自分をじっと見つめていた。
前腕を見られそうになったときのあの遠い目。
『お前、何、俺のこと気にしてるんだ?』
ヤスの声には怒りが込められている。
鏡からヒデへ目だけを移し、
首も動かさず、横眼だけでヒデを見ている。
『え?別に同期として自然に気になったことを
気になった、と言っただけだけどな。』
『余計な詮索をするんじゃねえよ。』
あ?人情ってもんで心配した、
だけとは言えないが、
人間として自然の行為だった。
その不自然さで、
ヒデにもヤスの怒りが伝染した。
『これぐらいのことを言って、
どうしてそんな目で見られなくちゃなんないんだ、え?』
ヒデとヤス、お互いに目が合うと、
一歩も引かない状態になった。
このままだと、胸ぐらの掴み合いになる。
いつもなら、ケンカしてやろうという感情だ。
だが、ヤスの残忍な妄想を一瞬、
頭でイメージした途端、冷めてしまった。
『とにかく、俺のことは気にするな。』
ヤスがトイレを出ていく。
コイツの妄想の1割も知ることはできなかった。
ただ、ヤスには人には言えない秘密がある、
それがわかっただけで、つかの間の安心を得た。
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