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『……あなたを見ていると、あなたのことを考えると、身体が熱を持つんです。全てがショートしてしまうかと思うほど……』
ガランと人のいない広いホールに、無機質で、それでいて熱を含んだよく通る声が響く。
声の主はあたしと同じ制服を着た一人の女子生徒。
……ほんっと、凄いなぁ。
彼女の演技の才能は、天からの授かり物だとしか思えない。
勿論、努力あってこそなのは分かってるけどね。
何が『まだ完全じゃない』よ。
関心を通り越して呆れすら感じる。
台本通りのセリフが感情に彩られて、彼女……月乃の口から紡がれていく。
私達演劇部は代々有名らしいけど、今回の全国大会進出に月乃が貢献したのは間違いないはず。
俳優である父親を目指して本気で女優を目指している彼女。
こんなに演劇にひたむきな人と、何となくで入部した私が同じ舞台に立って良いのだろうか。
なんて一度考えるとどんどん気分が青色にぃぃぃ……。
「……やば、もしかあたし超場違い?」
「なに言ってるんですか、彩芽先輩」
「うひゃ!?」
急に耳元で聞こえた声に驚き、ばっと後ろを振り向くと、そこにいたのは後輩の英梨ちゃん。
「さっき部長に自信持てって言われたばっかじゃないですか。いつものポジティブはどこいったんですか?」
そうは言ってもねぇ……。
「彩芽先輩が抜けちゃったら劇できないじゃないですか」
……ん?
「仮にも準主役なんですから」
準、主役?
「月乃先輩の親友役、なんて彩芽先輩じゃなきゃできませんよ」
「……あたしじゃなきゃ出来ない?」
ふーん……。
そうかそうか。
「まぁ他の人にも出来なくはないですけど、適役なのは現実でも親友の彩芽先輩だと……彩芽先輩?聞いてます?」
「そっかぁー。じゃあ帰るわけにはいかないよねぇ」
「……彩芽先輩?」
「あたしが抜けちゃ皆が困るもんねぇ。だって主役だし?」
「や、主役は月乃先輩ですけど」
「月乃の親友なんて難しい役、あたしにしか出来ないもんねっ!」
「……もうそれでいいです」
なーんかめっちゃやる気でてきたっ!
てか演劇部のアイドルであるあたしが暗いと、みんな心配しちゃうもんね!
「よーしっ!あたしがみんなを優勝に導いてあげる!なんたってあたしは勝利の女神っ!」
「勝利の女神様、煩いんで黙って下さい」
「ちょ、なんてドライなっ!」
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