ひねくれ姫と仲良くなりたい俺

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 その後ホームルームを知らせるチャイムが鳴り、俺と如月の会話は中断されてしまった。俺は連絡事項を伝える教師の話を全く聞かずに、ひねくれ姫とどうしたら仲良くなれるか考えていた。散々悩んだ挙げ句、俺は作戦を三つ考えた。  まず一つ目。  『落とし物拾ってくれてありがとう!よかったら仲良くなりましょう』作戦。  まぁ、作戦タイトル通りだ。俺がひねくれ姫の落とした物を拾って渡す!そうしたらひねくれ姫は「まぁ!あなたって本当に優しいのね!よかったら仲良くしてくださいな」と言ってくるに違いない…! 「………どこの姫だよ」  ホームルームが終わって俺の作戦を聞いた如月が、呆れ顔で言う。 「完璧だろ、この作戦!俺だったら喜んで友達になるぞ!」 「……それは絶対お前だけだよ」 「うるさい澄まし顔!よし、早速実行だ!」  というわけで授業中。一限目は現代文。担当は荒石という恰幅の良いおっさんだ。厳しいが授業に集中して周りが見えなくなる時が多いので、生徒達はこそこそと私語をしたり隠れてスマートフォンをいじったりしている。 そんな中、俺は日暮が消しゴムを落とすのを待っていた。  日暮の席は窓際の一番後ろ。俺はその隣の隣の席。俺は日暮の落とし物を見落とさないように左側を食い入るように見つめていた。  隣の山田が気まずそうにチラチラと俺を見てきたが、気にしない!俺が見ているのは日暮の消しゴムであってお前じゃない!  日暮はというと、いつも通りの無表情で教科書を見つめていた。俺はいつでも向かえるようにイメージトレーニングをしておいた。日暮の消しゴムが落ちた瞬間、俺は素早く立ち上がり、荒石に気付かれる事無く山田の後ろを抜けて颯爽と拾い上げる。完璧な作戦だ!!  さあ、俺はいつでもいいぜ!来い!日暮の消しゴム!! …… ………… ………………  な、なかなか落ちないな…  授業は後半になったというのに、日暮の消しゴムは全く落ちない。それはもう、机と一体化しているんじゃないかと思うくらい。日暮は書き損じをしないようで消しゴムを使う気配が全く無い。その間に俺は自分の消しゴムを二回も落したというのに!  もう、落ちないかも…この授業は諦めようと思った時―その瞬間は、来た。  日暮の肘にぶつかって、シャープペンがポロリと落ちた。  来た!!消しゴムじゃなくてシャープペンなのが少し気になるが、今はそんな事関係ない!  シャープペンを取ろうと、日暮が身体を屈める。……させるか!俺は素早く立ち上がった。山田がギョッとして俺を見たが、全く眼中になかった。俺の目に入っているのは、日暮のシャープペンのみ!日暮の手が徐々にシャープペンに近付いていく。  待った!そのシャープペンは…… 「俺が取るんだーー!!!」  固まっている山田の後ろをすり抜けて、こっちを見た日暮の伸ばされた手の先にあるシャープペンを素早く引ったくった。  やった……!ついに、日暮の落とし物を拾った……!!その場でガッツポーズをする。日暮のシャープペンは薄い青色のどこにでもあるシンプルな物だった。よし、これで日暮にシャープペンを渡せば完璧だ!  俺は顔を上げて日暮を見た。そこには、氷河期さながらの視線を俺に捧げるひねくれ姫がいた。小動物では一瞬で凍り付けにさせられるようなその視線に、俺は背中が寒くなった。 「…あ、の……?」 「……」  こ…怖ぇ!!何でだ!?何でそんなゴミクズを見るような目で俺を見るんだ!? 「………返して」  オロオロとする俺の手から、日暮は無言でシャープペンを引ったくった。 「あっ!」  俺の努力の結晶がいとも簡単に奪われた。あああ…何か絶対有り難く思われていない…!どうしてだ……。俺は絶望感でいっぱいになった。作戦は成功したというのに、自分の思った展開になっていない。俺は日暮と仲良くなりたいだけなのに…!そう思っていると― 「……ど」 「えっ?」  日暮が何かをボソリと呟いたのだが、俺は聞き取れなくて首を傾げる。  え、聞き間違えでなければ、もしかして…今「友達になりたいんだけど」って言った…!? 「日暮!もう一回言ってくれ!」  俺は確かめたくて、手を合わせてお願いをする。日暮の口からちゃんと聞きたかったから。日暮は少し間を開けると、ゆっくりと口を開いた。  俺の背後を指差しながら。 「…先生、仁王立ちしているけど」  そう言われた瞬間、背後にある殺気にようやく気が付き、俺は顔を青ざめさせた。 「皆塚ぁー…いい奴だなぁー?わざわざ隣の隣の席からシャープペンを取りに行ってやるなんて」  背後から聞こえるドスのこもった低い声に、俺はゆっくりと振り返った。そこには日暮の言った通り、仁王立ちしている現代文の担当教師、荒石がいた。 「え、えへへー。そうでしょ先生ー。俺って困っている人がいたら放っておけないからさー。人より一つ先を行くその姿から“桂馬(けいま)のショウちゃん”って言われるくらいだぜー?」  俺はゆっくりと立ち上がり、引きつる顔を必死に笑顔にしながら後頭部に手を当てた。冷や汗が全身から噴き出しているのが分かる。 「ほーう?そうか。その“桂馬のショウちゃん”にはどうやら授業を聞く耳が無いようだな…?」  ぐはっ授業を聞いていない事もバレている…!万事休すだ。だが、俺は笑顔を忘れずに荒石にこう言う。 「あはは…どうやら先生の授業は桂“馬”の俺にとっては念仏だったようで…」 「何上手い事言っているんだ!授業が終わったら職員室に来なさい!」 「……ふぁい」  どっと笑いが起こる。みんな俺を見て笑っている。…だけど、やっぱりひねくれ姫だけは、冷たい瞳で俺を見ていた……
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