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壱
「ヘビの完全食はネズミなんだって」
僕が蛇が苦手なことを知ってるのか無自覚なのか、そんな些細な事情を知らんとばかりにナポリタンをフォークで回す僕に相席で語りかけてきた。
ケチャップにパプリカやトマトにベーコンと、別にベーコンは赤とは言いきれないが、赤と赤で足し算された食事を一旦止めて僕は渋い顔で答える。
「なんで飯を食べてる時にそんな話題振るんだよ。食欲を奪う作戦? 男の僕にダイエットは必要ないからね」
「お、悪い。全然考えてなかった。まぁ面白いから聞いて聞いて」
そんな微妙に食べる気が損なわれたこちらには気にも止めないまま、彼は既に至った結論の解説者になった。
なんで僕が苦手なものの話を聞かなきゃならないんだ? 最初の時点て面白くないんだよ。
「人間はビタミン、亜鉛、鉄分だのと健康を保つのにああだこうだって栄養を取るべきだって話があるだろ? 当然そのために野菜に肉、魚って色んな物必要になるのは分かるな? ウチの母ちゃんはDHC飲んでるよ。魚の目玉のやつ」
「そう。で?」
奴は語りながらパフェをガシャガシャと中身を混ぜて食べ出した。食い気は堪えていない。
「だからネズミ。ネズミをあげればヘビは必要な栄養を取りきれるんだってさ。これ、知り合いのヘビ飼ってる人に教えてもらった。なんだっけ? 名前。エリザベスのエリちゃん? ジュリエットちゃん? あーいや、雄だったな。まぁそのヘビ畜生に解凍ネズミやってるんだって。餌付け見たけどまぁグロい。グロい通り越してゲロイ」
「へぇ、で?」
「丸呑みなんだよね。あごがどれくらい開くんだこの爬虫類ってくらい。ネズミも生きてたらたまんないだろう。あ、凍らされて時点でたまんねぇか。とにかく徐々に呑まれてくんだけど、噛み砕いたりしないからむしろヘビのあの長い胴体が膨らむ様とか生々しかった。飼い主はそこがチャーミングなんだって。理解できないわ」
「ふぅん」
「つれないなぁタケル君は」
当人の言うゲロイ話を食事中にされて、適当な返事を揶揄された。聞く努力をするだけ良いと思えば良いのに。
そんな縁の腐った相手、芥河充とファミレスでの話だった。
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