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「ねぇ…思い返すことはできないの?」
焼け落ちる建物の前で少女は目の前にいる少年に問いかける。
その表情は必死で少年を引き止めたいと本気で思っていた。
だが、少年は頭を横に振る。
「俺は覚悟を決めたんだ……引き返すことなど…もうできない……」
そして告げられる否定の言葉
だが、その言葉は彼女の気迫を退けるにはまだ足りない。
その証拠に彼女は更に少年に迫る。
「でも…!一緒なら何とでもなる!
悲しみも一緒に背負って行ける!」
必死の形相を浮かべながら彼女は更に一歩前に出る。
自分が何故ここに居るのかすら彼女は忘れていた。
だから彼女はずっと胸に秘めていた言葉を言おうとする。
「いつまでも一緒にいてあげる!
だって私あなたのことずっと……!」
「俺が…人殺しでもか?」
「……っ!」
だが、途中で割り込まれた言葉に彼女はその先が言えなかった。
その返答はわかっていたことだ。
すでにわかりきっていたことだ。
それでも彼女はその先が言えなかった。
今の彼女には…それを言うだけの覚悟と決意が定まっていなかったのだ。
だから彼女は言葉を失う。
どこか冷静な自分が呼び覚まされ、現実を突きつける言葉への返答に戸惑う。
困惑する彼女の表情を見て少年は苦笑と共に背を向ける。
一瞬でも彼女が困惑した時点でもう少年の答えは決まりきっていた。
「その場の感情でその言葉を簡単に言っちゃいけない
君にはもっと別の人が似合ってる……」
「待って!」
「待たないさ…俺は……君のなんでもないのだから…」
引き止める少女の言葉をバッサリと切り捨てると少年は跳躍する。
燃え盛る炎が照らす夜空を駆け抜ける少年の腕には赤い布でできたリストがなびいていた。
去る背中を少女は立ち尽くしたまま眺めるだけしかできなかった。
少年の残した「俺は君のなんでもないのだから」の言葉がトンネルの中のように反響し続け、いつまで経っても彼女の耳から離れてくれなかった。
鳴り響くたびに彼女の心へ打ち付けられる釘のように深く突き刺さる。
彼女の瞳から涙が頬を伝う。
それは顎まで伝い、落下する。
落下する水滴は結局『構えたまま抜かれる事のなかった』刀の鞘に当たり、砕ける。
まるで少女の決意が砕け散るように……儚く、脆く、いとも容易く……
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