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「また…あの夢……」
額を抑えながら起き上がる『水景 夕鳴(ミカゲ ユウナ)』の目覚めは最悪だった。
“ギルド陥落事件”があってもう数年も経つというのに彼女は未だ忘れられないでいた。
それは彼女の未練によるものか、それは彼女にもわからない。
ただ、これだけはわかる。
自分は未だに彼のことが忘れられないのだと……
彼女はそれを一瞬頭の中に浮かべるとすぐに振り払うと気怠い身体にいつも通り喝をいれてベッドから降りる。
そしてすぐさま浴室に足を進めながら着ていたシャツを脱ぐ。
ここには部屋を共有する人物もいなければ窓も締め切られているので覗かれる心配もなかったから彼女は容易くその色白な素肌を晒す。
浴室に入るなり目の前にある模様に…魔法陣に触れると天井からシャワーのように水が降り注ぎ彼女の身体にまとわりつく汗を洗い流す。
今の彼女にとってその冷たい水がとても心地よかった。
火照った身体を冷やし、血の昇った頭を冷静にするのにちょうどよかった。
ふと顔を上げるとそこには夕焼け色の髪とコバルトブルーの瞳を持った人物が自分を見ていた。
もちろんそれが鏡に映った自分だと彼女は理解している。
彼女にはそれが忌々しかった。
コバルトブルーの瞳は元より、夕焼け色の髪は先天的なものだ。
彼女はハーフかクォーターなのかと思われるが違う。
彼女の両親は両方共日本人でかなり遠い先祖に外国人がいるくらいだ。
だが、確かに彼女の髪の色と瞳の色は先天的なものだ。
ならばエルフかと予想されるのだが、これもまた違う。
それは耳の形を見れば明らかだった。
エルフの耳は必ず尖っている。
だが、彼女の耳は普通の丸い形をしていた。
答えは単純だった。
彼女が先祖返りして古代固有魔法(エンシェントマギカ)『断罪の炎』を生まれながらにして宿していたからだ。
自分の先祖がどんな人物か、夕鳴は知らない。
だが、少なくとも彼女のように夕焼け色の髪とコバルトブルーの瞳を宿していたことは誰もが知っている。
だから誰もが夕鳴に期待する。
「この娘は素晴らし才能を持っている」と……
だから数年前のあの時、期待してくれる皆を救おうと友と共に戦った。
だが、彼女は守れなかった。
ギルドの仲間を、そして闇に落ちる大切な人を救うことができなかった。
「くっ!」
ガンッ!
彼女は悔しさを乗せた拳を鏡に叩きつける。
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