夢を見たけど君は知らない

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めまいでふらつくほどの暑さにハッとする 変に青い空の下 マリーゴールド色の家が並ぶ路地に迷い込んだ 白い石が埋め込まれた道から声がする きみの思い通りになるよ ドアを選んで開けろ ドアの向こうは黄色い砂ばかり 景色にピラミッドが揺れる 「ここは暑いね」 一人の青年が私の後ろに立っていた ヒーヒーいうほどの暑さなのに セーターを着て汗一つかいていない ついてきなさいと私を促して 人差し指にツバメをとまらせた青年は 砂山の頂上を目指す 頂上まで辿り着いて 靴のなかの砂を落とす青年と私 「さあ乗って」 振り返ると エレベーターのドアだけが砂の上にあった。 笑いながら乗って 上を目指す どのくらいまで来たのだろう エレベーターは速すぎて 私は立っていられなくなってしゃがんだ それでも青年は立ったまま 涼しい顔してしゃべりかけてくる 「暑いところは結構好きなんだ!」 元気だ 着いた階には鳥のマークがついていた 鳥の飛んでいる高さまでエレベーターでやってきたみたいだ 高層ビルの中を飛んでいるのに 遥か遠くの森まで見える 自分の体はここにあるのに 心ここにあらず 心だけがビル街を飛んでいる 口を開けると冷たい空気が勝手に入ってきて 肺の空気を総入れ替えする 隣にいる青年は言った 「もっと高いところに行きたいかい?」 「行きたいな もっと高く」 またエレベーターに乗り込む青年と私 ボタンには何のマークも無い 扉が開くと黒だった 何もない 何の光もない 何も聞こえない 自分の耳がおかしくなったのかと思ったが 静かすぎるせいだった 「ここは 1番高いところから3番目に高いところさ」 真っ暗だから 果たして自分がちゃんと立っているのかどうかもわからない 宙に浮いている感覚 青年の指にはツバメがいない 「ツバメは?」 「あの子はまだここに来るほど生きていない」 「そう。なんだか怖いよ。帰りたい」 「そう言うと思ったよ」 「帰りたい」 「じゃあ目を瞑って、これを握って。ダイヤと象の尻尾の毛の指輪だよ。そうすれば帰れるよ。きっとあの人が君の帰りを待っているからね」 懐かしい、どこかで見たことのあるような青年は 自身に満ち溢れた笑顔で 光に飲まれて消えた 消える直前、青年の耳に、魚の耳飾りがあるのにやっと気付いた 目が覚めたのは午後三時 ちょうど、買い物から帰ってきた彼が、くだもの缶をテーブルに置いた音で目が覚めたimage=81117611.jpg
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