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彼を見つめる虚ろな意識の中、遠くで、ナースのものとは全く違う足音が廊下に響く。その音はだんだん大きなって、部屋の前で止まった。
その瞬間ガラッと開く扉の音。
そこには、白いワンピースを着た20代ぐらいの女性が立っていた。
スッキリとしたスタイル。
その眼差しは、満月の夜の岡本さんにそっくりで。
私は、思わず岡本さんの手を離し、その女性に声をかける。
「・・・梨花さん・・・ですか?」と。
名前を呼ばれて一瞬、驚いた表情を見せたけれど、直ぐに「井上梨花です」と名乗りお辞儀をされた。
モニターの音だけが響く無機質な部屋に、白い花が舞い込んできたように梨花さんは岡本さんの傍へ佇む。
「お父さん・・・」
そう呟いた梨花さんの表情は、苦悶に満ちていた。
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