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「露天風呂は、離れにございます。
お部屋を右へ出て、突き当たりの渡り廊下を通ればすぐでございますので。
夕食の時間までごゆるりとお過ごしくださいませ。
では、失礼いたします…」
パタン、と襖が閉じられる。
父さんは早速、届けていただいた荷物から下着を出し、浴衣を持って、みんなを急かす。
子供かっ!
「お父さん、鬱陶しいからソワソワしないでちょうだい」
「仕方ないだろう、楽しみにしてたんだから♪」
「もう…子供みたいな人ね!」
みんなが準備できて、離れへ向かうときも、父さんが先陣を切っていく。
スキップでもしそうなほど、足は軽やかだ。
「…父さん、楽しそうだな」
珍しく、兄ちゃんから声がかかった。
突然のことに驚いて、すぐに返事ができなくて、兄ちゃんの瞳を見つめ返すしかできない俺。
数秒、視線は合ったままだったけど、依然感情が読み取れない…。
ふい、と、兄ちゃんはまた前を向いてしまった。
気まずい空気のまま、露天風呂入り口につき、母さんとは別れ、中に入った。
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