羅城門《起》

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「木原さん、落ち着いてください。貴方は運が良い。いや、ご友人の紹介で此処に来て正解でしたね」  幹子は男をたしなめるように呟いた。  手振りの動作で、男に再びソファーに座るように諭す。彼女は声色を少し変えて、本題に持ち込もうとした。 「そして、私も幸せです。『奇端倶楽部』は、あらゆる心霊現象を解明する為に存在しているのですから」  そして、彼女は微笑んだ。  男が帰った後、事務所の隅で作業に勤しんでいた青年は思わず溜め息をついた。  青年は名前を倉沢恭介(くらさわきょうすけ)と言った。    黒縁の眼鏡を掛けて、見た目からは物静かな印象を受けた。  しかし、彼が全体的に垢抜けなく見えるのは、彼の悩みの種である童顔が問題なのだろう。 「幽谷(かがや)さん、大丈夫だったんですか? そんな壺、受け取っちゃって」  恭介は不気味そうに今し方、手に入れた壺を一瞥した。  壺は物言わず、不気味な圧力を醸し出している。  骨董品などの古い物には個人的に興味は有るものの、恭介はソレに触りたいとも思わなかった。 「……なんだ? 倉沢、怖いのか?」  幽谷と呼ばれた女性は、落ち着いた様子で返す。  彼女は仕事が一段落したので、一服している途中だった。  お気に入りの銘柄を咥えながら、恭介と話をする姿には先程の気品や品性と言ったものは無い。
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