羅城門《承》

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 炎の中、恭介は春代をおぶりながら歩を進める。  炎は渦を作り、恭介達を飲み込まんとした。  恭介の足には餓鬼小鬼等がしがみつき、恭介を取り殺さんとした。  炎の中から、嘲笑うかのような声が聞こえた気がした。  恭介は自分にしがみつこうとするソレらを振り払いながら、前へ前へと足を踏み出す。  火の回りが予想以上に早く、炎の燃える音の節に、木が燃え尽きて建物の何かが崩れ落ちる音が所々で聞こえた。 「――――……」  恭介の前の道が、完全に火の手に遮られていた。  恭介は思わず、息を飲み、立ち尽くす。  だがしかし、恭介には、この先に進めば、母屋に続くのであろう廊下に出られるということが分かっていた。  恭介の頬を汗が伝う。  ――幽谷さん、ごめんなさい。ケイ、ごめんね。  今更になり、自分の軽はずみな行動を心の中で恥じ、諦めにも似た感情が自分の中に湧き出るのを抑えることが出来なくなった。  ――――……クソッ!! クソッ!! こんなの、クソだよ……。  思わず、腹の中で毒づいた。   奥歯を噛みしめて、恭介は眼の前の炎を睨めつける。  彼は目の前の理不尽さが信じられないといった様子で、眼を細めて、自分の顔を苦悶に歪めた。
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