羅城門《承》

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 ――……許すことが出来ないよ。  春代さんが絶望して自殺なんてしなければならない不条理を、僕は許すことが出来ない。  恭介には自分がここで諦めてしまうことが、まるで、それら不条理を全て肯定してしまう行為のように感じてならなかった。  恭介は自分の前に立ちはだかる、炎の壁を真っ直ぐに睨めつけた。    まったく、因果な世の中だよな、ケイ。  彼は自身の臆する心を歯で噛み殺すように、奥歯を食いしばり、目の前にある炎の壁に足を踏み出した。    ――その瞬間、炎の壁が開けた。  まるで退くように炎の勢いが殺され、恭介の前に母屋への廊下に続く道が作り出される。   「――――ッ!?」 恭介は何が起こったと、自分の眼を疑った。  見るとそこには、頬の痩せこけた初老の老人が優しげな面持ちで恭介達を見詰めている。  恭介は彼の顔立ちに見覚えがあった。  老人は体の末端を小鬼に蝕まれながらも、そこに立ち、恭介に母屋へと続く廊下を指さしていた。  体は朽ちかけているが、その意志ははっきりと恭介に伝わった。  恭介は頷くと、再び、足を踏み出し老人が指さす方向へと足を踏み出した。
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