羅城門《承》

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 老人が作り出した道を、恭介は噛み締めるように進む。  その間、言葉では聴こえないものの、老人の確かな感情が自分の中にそそがれていくのを感じた。  彼の感謝が、言葉以上に確かなものとして、恭介に伝わる。  恭介は、本川春代を落とさないように、しっかりとおぶり直した。  彼の様子を見て、老人は朗らかに頬を緩ませた。  その瞬間、フッ、と老人が掻き消えた。  道を作っていた炎は元に戻り、再び、恭介の後ろで轟々と逆巻く炎の音が聞こえ始めた。    火の手のまわっていない場所は、もう目前のように感じられる。  しかし、一酸化炭素を吸い込み過ぎたのか、恭介は目眩を感じ、彼の視界は霞んだ。  不意に聴こえる、炎の中の笑い声から恭介は必死に抗おうとする。
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