羅城門《転》

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 天井は潔癖なまでに白く、どこからかカチャカチャと金属の擦り合う音が聞こえた。  それと共に、車輪のガラガラと巡る音が聞こえる。  消毒と鼻腔をくすぐる“ソレ”の混じり合った臭いは、まるで自分の体が虚弱になったかのような不安感を抱かせた。  ……何度嗅いでも、馴染むことの無い臭いだと思う。  ゆっくりと体を起こして、ベッドの隣に置かれた椅子に足を組みながら座る人に、恭介は顔を向けた。 「……おはよう、ございます」    恭介は自分の存命に半ば驚嘆すら覚えていた。  命を投げ打つ覚悟なんてものは無かったし、自殺願望も自分には無い。  ただ、咄嗟に動いてしまったのだから仕方の無いことだと思う。  あの炎の中で自分が生還できたのは、自分が“生かされているから”だと、今は思えた。 「おはよう、倉沢。お前は、丸一日寝ていたよ」  幹子は眠たげに眼を細めながら、そう答える。  彼女の眼元には薄っすらとクマが出来ていた。  もしかして、彼女は一晩付きっ切りで自分の隣に居てくれたのだろうか、と恭介は再び驚嘆を覚える。  いや、それは……。  病院で一晩付き添いというのも、出来るとは思えられないし……。
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