羅城門《転》

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「ところで、依頼主の言っていた“絵巻”はどうなった?」  彼女は自分の吸っていた煙草を携帯灰皿に入れると、恭介を見る。 「――え……?」  不意に切り出された質問に、戸惑いながらも、恭介は事件当時の様子を思い出した。  そういえば、”絵巻”はどうなったのだろうか。  失念していたが、あの火中、絵巻の姿が見られなかったことを恭介は思い出す。 「絵巻ですか? ……それが……。辺りに火の手がかなり回っていましたので見つけられませんでした」 「ですが、おそらく、あの火事で焼失したのではないかと」 「そうか」  幹子は頷きながら恭介の話を聞くと簡素な返事をした。  幹子の何か意図の含まれた返答に、恭介は眉をひそめた。 「それが、どうしたんですか? ……まさか、今回の依頼について、新しく分かったことでも?」 「ああ。お前が倒れた後、本部にまで協力を要請して情報を集めたんだ」 「――……え!?」 「と、言っても、調べた内容は他愛も無い内容だったがな」 「……面目ないです。一体、どのようなことを調べられたのですか?」 「言うならば、本川康久の趣味と本川家と周辺の状況について、だな」 「あれ? それらは事前に調べませんでしたっけ?」 「事前に調べるのと、事後に調べるのとでは見える物も違ってくるだろう?」 「はあ……」  意図の明瞭でない発言に、恭介は自分が煙に巻かれているような感覚を覚え、再び顔をしかめた。
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