羅城門《転》

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「さてと。行くか……」  幹子はそう言うと、立ち上がり、床に置いていたショルダーバックを肩に掛けた。 「――え。 幽谷さん、今から何処に行くんですか?」 「……ふむ、院内の“新しい依頼主”の所……と言ったところだな……」  幹子は恭介から視線を外して、無表情のまま、少し考えた様子で答えた。 「ちょっと待って下さい。僕も行きます」 「患者服を着たまま、会談に出席するつもりか?」 「でも僕だけ、こうやって休む訳にはいかないじゃないですか。――痛ッ!!」  ベッドから急いで降りようとすると、恭介は急な頭痛を覚えて小さく悲鳴を上げた。  そういえば自分は火事の中で頭を打って気絶したんだ、と恭介は今更ながらに、そんなことを思い出す。 「それ見たことか。倉沢、本当に行くのか?」  恭介の様子を見て、幹子は呆れがちに言う。 「あ、たりまえ……じゃないですか。僕だけ休む訳にはいかないんです」  恭介は声を上擦らせながらも言う。彼の額から、汗が噴き出る。 「……せめて、私服に着替えろ。途中で看護師に見つかったら何と答えるつもりだ、馬鹿者」 「――……了解です」  恭介は痛みに顔を引きつらせながらも、笑う。  幹子はその様子を見て、それ以上何も言うこと無い、という様に新しい煙草に火を付けることにした。
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