羅城門《転》

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 幹子の歩みには迷いが無く、目的の場所へと彼女は進んで行く。  もしかしたら、幽谷さんは春代さんの所へと向かっているのかもしれない、と恭介は考えた。 「倉沢。一つ、言っておく事がある」 「はあ……」 「これから先、羅城門の絵巻のことは口にするな。 言うとしても“ある絵巻”とだけだ。分かったな?」 「はあ……」  やはり曖昧な返事を恭介は返す。  幹子の今からしようとしていることを、恭介は想像することが出来無かった。  幹子なら、一時的なりとも意識不明の春代と“コミュニケーション”を取ることが出来るかもしれない、と恭介は思っていた。  しかし、幹子は今から向かう場所を“新しい依頼主の下”と言った。  その発言が、どうしても恭介の脳裏から離れない。 「幽谷さん、新しい依頼者とは一体、どなたなんですか?」 「…………」  幹子は恭介の問いに答えることなく、病棟の廊下を突き進む。  それにしても、先程の約束事とは一体どういう意図があったのだろう。  恭介は、幹子の発言の意図を汲めずに、ますます困惑した。 「幽谷さん……!」  幹子のいつも通りの態度に、恭介は少しだけ口調を強めてしまう。 「お前、死にかけでも元気だなあ。今から行くのは現当主“本川才蔵”の病室だ」 「――…………」  幹子の返答に、恭介は言葉を詰まらせた。
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