21人が本棚に入れています
本棚に追加
春代の依頼を受けてから調べた情報によると才蔵氏は確か、任期を満了し、次の出馬に備えて都内山麓の実家とは違う、別宅に今は居る筈だ。
事実が、情報と食い違っている。
「それは、どういうことですか?」
「さてな。それは本人に聞いてみようじゃないか?」
現在居る階層の最奥に位置するであろう病室、その扉の前で幹子の足は止まった。
「ここだ」
目の前の病室には入院者の名前を表示するプレートが掛かっておらず、病室の扉は静かに閉ざされている。
幹子は病室の扉の取っ手に手を掛けた。
「……今日はもう、面会の取り付けは受けて無かった筈なんだが」
扉を開けると、一人の男性がベットの上に上体を起こして休んでいた。
幹子の図ったことか、ちょうど病室には彼以外の人は居ない。
年齢は初老程で、茂る髪には幾らか白髪が混じり、彼は銀縁の眼鏡を掛けていた。
恭介は思わず、驚嘆を覚える。
写真やテレビで見かける姿とは一見して多少やつれては見えた。
それは正しく“本川才蔵”本人である。
彼の声は強く、幹子達をやつれた目で睨めつけた。
「――まさか、病室を間違えたわけでもあるまい。誰だ君達は。人を呼ぶぞ?」
最初のコメントを投稿しよう!