羅城門《転》

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 春代の依頼を受けてから調べた情報によると才蔵氏は確か、任期を満了し、次の出馬に備えて都内山麓の実家とは違う、別宅に今は居る筈だ。  事実が、情報と食い違っている。 「それは、どういうことですか?」 「さてな。それは本人に聞いてみようじゃないか?」  現在居る階層の最奥に位置するであろう病室、その扉の前で幹子の足は止まった。 「ここだ」  目の前の病室には入院者の名前を表示するプレートが掛かっておらず、病室の扉は静かに閉ざされている。  幹子は病室の扉の取っ手に手を掛けた。 「……今日はもう、面会の取り付けは受けて無かった筈なんだが」  扉を開けると、一人の男性がベットの上に上体を起こして休んでいた。  幹子の図ったことか、ちょうど病室には彼以外の人は居ない。  年齢は初老程で、茂る髪には幾らか白髪が混じり、彼は銀縁の眼鏡を掛けていた。  恭介は思わず、驚嘆を覚える。  写真やテレビで見かける姿とは一見して多少やつれては見えた。  それは正しく“本川才蔵”本人である。  彼の声は強く、幹子達をやつれた目で睨めつけた。 「――まさか、病室を間違えたわけでもあるまい。誰だ君達は。人を呼ぶぞ?」
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