53人が本棚に入れています
本棚に追加
「社長、ひとつ訊いてもいいですか?」
僕の前に座っている男が話しかけてきた。
「どうぞ。」
みんなは蕎麦を食べる手を止めた。
「あの……親子ですか?」
僕は缶ビールを吹き出しそうになった。
隣で赤星は大笑いした。
「どう見ても似てないでしょ。」
また、彼らが僕を見る。
「まあ、そうですが…。」
「高校生の時に道端で拾いました。」
「拾った……?」
「ええ、こんなに立派になるとは思いませんでした。宝くじ並にラッキーでしたね。」
おい、おい、周りが困惑しているぞ。
嘘でも、もうちょっとましな嘘はつけないのか。
僕は赤星を見たら楽しそうに笑っていた。
「これでも高校生の頃はとっても可愛いかったんですよ。今はこんなになっちゃいましたけど。」
何だ今の発言は?
「そうですか?カッコいいじゃないですか?芸能人になれば良かったのに、もったいない。」
ひとりの女性がそう言った。
「その方が稼ぎが良いですかね?
今から職を変更します?」
赤星が僕を見てそう言った。
「何の話ですか?無理です。」
「ほらね。クソが付く程真面目なんですよ。つまらないでしょ。」
赤星は僕をからかって笑っていた。
皆もつられて笑っていた。
何とか誤魔化して食事が終わった。
「それでは、社長、僕らは失礼します。」
「また、明日からよろしくね。」
「ありがとうございました。」
僕らは赤星の社員たちを玄関で見送った。
「ちょっと、疲れたね。」
「ソファで寝ていれば。僕は少し荷物を整理します。」
赤星に軽く笑って部屋に入った。
僕は部屋に入り残りの段ボール箱を開けた。
最後の本を本棚に入れ終えて、僕は床に寝転がった。
窓から心地良い風が吹き込んで来る。
今日は、色々な話が聞けて僕も疲れた。
赤星の人間関係や老後の面倒。
道端で拾った?
高校生の時は可愛いかった?
極め付けがあの写真だ。
あの男が何を考えているのかさっぱり分からない。
僕はいったい何処へ行けばいいんだ。
何だか気怠い。
少し寝るか……。
最初のコメントを投稿しよう!