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思えば、目を覚ました時から私は妙な違和感を感じていた。
いつも通りの目覚め、いつも通りの朝、いつも通りの天気。いつもの光景だというのに、何だか落ち着かない気分だった。でも、それは昨晩、呑んだ酒からくる酔いの名残だと思い、あまり気にしないようにした。そんなの一々、気にしていたら仕事にならないからだ。
朝食に焼いた食パンを口にした。いつも食べている食パンのはずなのに、何だか変なモノを食べさせられたような気分になった。酔って味覚がおかしくなったのだろうか。
口の中の違和感を洗い流そうとコーヒーを口にしたが、それも同じだった。飲み慣れたコーヒーの味は、まるでドブ水のようにひどい味がした。
私は口を押さえ、トイレに駆け込むと、それらを吐き捨てた。仕方がないので、水で口を濯いでから会社へと出勤した。
会社に向かう間も、私の中から違和感が消えることはなかった。まるで、別の世界にでも迷い込んだかのような気分だ。いや、これは酒のせいだ。年甲斐もなく酒を飲み過ぎた結果なのだ。そう、自分に言い聞かせ違和感を払拭しようとした。
会社に着くと、同僚が気軽に声をかけてきた。
「よ!昨日は、ずいぶんとハメを外したな」
「ああ。どうやら、酒を飲み過ぎたようだ。まるで、昨日までとは世界が違って見える」
実際、会社についても違和感は続いていた。声をかけてきた同僚ですら、親近感がもてない。顔を知っているが、隔たりがある別人に思えて仕方がなかった。
そんなことを知らない同僚は私を見て言う。
「酒飲みにはよくあることさ。今度は飲み過ぎないように注意することだ。酔いすぎると、足下も覚束なくなるから歩道橋の階段から落ちたりするんだ」
「階段から落ちたのか?」
「見事にな。覚えていないのか」
同僚は驚い言った。
どうやら、この違和感は酒からくるモノだけではなさそうだ。階段から落ちたのも、要因の一つらしい。落ちた時、頭をどこかにぶつけてしまったのだろう。
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