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今日ばかりは、仕事に身が入らなかった。いつもの私なら、この程度の仕事はテキパキこなしていたというのに。何をしていても、違和感を覚え手が一瞬止まってしまう。効率よく作業することができなかった。全てが不調であった。
提示になると、私は真っ先に会社を出て病院へと向かった。いつまでも、こんな違和感を抱えていたくなかったらだ。
「なるほど、確かに後頭部がケガをしているようですね」
医者は私の頭に残る小さな傷を見て言った。万が一に備え、レントゲンも撮ってもらったが、頭の中に異常は見当たらなかった。不幸中の幸いだ。これで、もし頭の中までケガをしていたら大騒ぎだっただろう。できることなら、それは避けたかった。
「おそらく、そのケガが原因で軽い記憶障害を引き起こしたのでしょう。食べ物の味がおそらく、変に感じたのも、それが原因で・・・」
「何とかなりませんか?このままでは、仕事に支障をきたしてしまいます」
「ケガも浅いようですし、何とかしてみましょう。最近はいい薬が出来ていましてね、この程度の記憶障害ならば、すぐに治りますから」
医者はそう言って、薬の入った注射を私にしてくれた。薬の効果は絶大で、全てに違和感を覚えていた私の頭は次第に、ハッキリとしてきた。まるで、頭の中にできた霞が払われるような気分だ。
「どうですか?」
「おかげさまで、記憶は戻りました」
薬の効果のおかげで、記憶は戻った。全ての違和感が消え去り、全てが普通に見えた。薬は新しいモノで、大変、高価であったが、記憶が正しく戻った今となっては、格安だった。このまま、記憶が曖昧なまま、全てに違和感を覚えたまま、生活を送っていたら大変なことが起こっていただろう。
受付で治療代を払った私は家へと直行した。
家に帰ると、テーブルに置いたままの食パンを冷蔵庫にしまった。この食パンなる食べ物は不便だ。放置しておけば、カビが生えて食べられたモノではなくなるのだから冷蔵に入っている。それは、食パンに限ったことではないのだが。
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