ダストA

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新しい家の周りにはあの潮の香りや煌めく海はなかったが その代わりに大きな森があった。 初めて森に行った時、 森の中に入るとすぐに今まで嗅いだことのない香りがして Aはこの町へ引っ越してきたことによる不安な気持ちが 一瞬で薄れるのを感じた。 その森の中の香りは 甘いような酸っぱいような不思議な香りで 足元の土からしているのか それとも森の中の沢山の樹々から香っているのか 森の上の上空から漂ってきているのか わからないけれど、Aの身体をすっぽりと包みこんで まるで宙に浮いているような感覚がするのだった。 その感じがたまらなく好きで Aは頻繁に森へ行くようになった。 森に行くときはいつも一人だった。 森で過ごす時間は、とても静かで昼間でもひんやりとしたその空間に身を置くと Aは自分の身体が周りの空気と溶け合ってなくなっていくような気がした。
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