序章

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「痛ッ……」 仕事帰り、歩いて帰宅していると人にぶつかってその場に尻餅をついてしまった。 その人は。私のほうにチラリと目を向けただけで、さっさとどこかへ行ってしまった。 「なんか、やだな……」 すぐに起き上がるのも何だか面倒で、私は思わずぼそりと。なんか、嫌というのは。ぶつかってしまったこともそうだけれど。この毎日の単調さの積み重ねに対してつい愚痴をこぼしてしまったことの方が大きいだろうか。 漫画とか、小説とか、映画とか、テレビとか。そういうものが面白いうちは……。面白いと感じられるうちは。死なない方がいい。 と、私の好きな小説に書いてあった。自分でもこれは思っていたことだ。別に自殺願望があるわけではないが、同じことの繰り返しでつまらない日々に、いい加減飽き飽きとしていた。学生時代然り、社会人然り、誰もが一度は思うことではあるけれど。自分はなんてつまらない人生を送っているのだろう、と。 おまけに疲れている身体に、衝突だ。私も余所見をしていたかもしれないが、何か一言あってもいいのではないだろうか。 ――いつまでも座り込んでこんな暗いことを考えていても仕方が無い、私は立ち上がろうと腰をあげようとした。が。 突如聞こえてきた声に、私はその動きを止めた。
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