10人が本棚に入れています
本棚に追加
1.
「おーなかー、すいーたー」
「まだだまだ耐えられるって!お前はできる子だ!大丈夫!俺がついてるから!ここはお前に任せて先に行く!」
「そーなのかー……じゅるっ」
「じゅるっじゃねえよお前何涎たらしてんだよそれで何で俺の方を嬉々とした目で見つめてるんだよおいやめろ俺は食っても不味いから!」
「大丈夫、私は好き嫌いしないから」
「そういう問題じゃねえ!!」
さて、私こと黒埼白土は森の中を全力疾走していた。
開幕早々、どうやら俺の命が終幕しそうである。
ぎゃーてー。
全力疾走して森の中を駆けるものの、既に息は絶え絶え、足は痛いし、今すぐにでも止まりたい。けれど止まったら食われる。
そう、食われてしまうのだ。
若干痩せ型の別段おいしそうなわけでもない俺が食されてしまうのだ。
今現在――俺は涎を垂らしながら背後を飛行してくる金髪妖怪少女に追いかけられているのだ。
略して妖女に追いかけられているのだ。
……うーん安直。
何故彼女が妖怪なのかわかったのかと問われれば、必死に作った砂場の山より低く、頑張って掘った落とし穴より浅い訳が、つまりはただ単に自分から暴露してきたからなのだが、しかしそれは今の問題ではない。
食われそう。
それが今一番重要な問題である。
こんな妖女に頂かれるならご褒美だとか抜かす奴らがいるのだろうが、しかし俺はそういう趣向は持ち合わせていない。
いのちだいじに。
そのコマンドをひたすら忠実に守って全力逃走している次第である。
そもそもどうしてこうなったのかと問われると、この世界に迷い込んだ直後に目の前に居たのだ。
空腹が酷いのか虚ろな目をして涎を垂らしている妖女が。
目が合った瞬間に、その目がまるで新しいおもちゃを与えられた子供のように輝いて、そして襲いかかってきたのである。
あの目の輝きは、今の俺には真似出来ないぜ……。
最初のコメントを投稿しよう!