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取りあえず現実逃避は置いておこう。
ひたすらに走って、徐々に俺の走る速度が落ちて行っている。当り前のことである。それにしても、結構な距離を走っているのだが、一向に森を抜ける気配がない。一応直線に走っているはずなのだが。いや、抜けない方がいいのか?木々が邪魔してくれているおかげで妖女は俺に追いつくことができないようだから、もし森を抜けて障害物が何もないところに出てしまった場合追いつかれてしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、
「いい加減逃げるの諦めたら?そしたら走らなくて済むよ?」
背後からそんな甘い誘惑が来た。
しかし、まあ、その誘惑を受けたら食われてしまう。
「それ死んじゃうじゃん!」
必死にそう言い返してやった。
そうやって返答できるあたり、案外余裕があるのかもしれない。
走るのが辛いから逃げるのを止めるとか、本末転倒である。何のために逃げているのか、それをしっかりと理解しなければならない。
――しかし、実際に逃げるのは限界であった。酸素が足りない。視界が若干ちらつき始めている。
――もう楽になりたい。
そう思ってしまった。
その一瞬速度が落ちた。気が抜けてしまい、まさかのまさか、誘惑に屈したのだろう。若干だが速度が落ちた。
その一瞬、その若干、速度が落ちただけで、今の今まで辛うじて保っていた安全距離が縮まってしまう。
肩を、小さな掌がつかむのを感じた。
疲弊しきった体は外部から与えられた力によって容易にバランスを崩して俺は無残にも地面を転がってしまう。
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