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「ありがとよ。マジで死ぬかと思ったぜ俺ァ」
そういう俺の顔は、酷く情けなかっただろう。正直なところその情けない顔を見られたくないからずっと俯いていたかったが、しかしそれは恩人に失礼だろうからしっかりと顔を上げて俺は言うのだ。
「それはよかったわね。私が偶々見つけなかったらルーミアに食べられてたわよ。こう、がじっと、頭から。バキバキ、グチャグチャ、ズゾゾゾゾって」
「……その表現だけで背筋がゾワってした」
何ともまあ生々しい擬音を。その音を聞くだけで身の毛がよだち、想像すると吐き気すらこみあげてくる。
「そうならなくてよかったじゃない。想像の中だけで済んで良かった良かった。ほら」
そういって彼女は手を差し出してきた。
「ほんっとにな」
その手を掴んで立ち上がる。差し出されたのだから、その手を掴むのが礼儀だろう。よっ、と掛け声をかけて立ち上がった。
「あーもー!」
立ち上がると同じくして、横から先程俺のことを食べようとしていた妖女の声が聞こえてくる。まさに苛立っていますという声音だが、しかしその幼い声には恐怖を抱くことはない。
先程妖女が吹き飛ばされた方向へ顔を向けてみれば、むすっとした表情で宙に浮かんでいる金髪妖女。見た目だけなら可愛いんだがなあ。あ、若干右の頬が赤くはれている。あそこに何かしら攻撃を喰らったのだろうか。結構痛そう。
しかし、あれに食われそうになったと思うとぞっとする。
……食われそうになってた俺にはぞっとしないが。
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