3人が本棚に入れています
本棚に追加
「あら、どうしましょう」
純真無垢な修道女を、ミシェルは演じることにした。
恐らく彼らは「仕事中」なのだろう。
この先で誰かが捕まっているのかも知れないが、それを助けるにせよ丸腰ではどうにもならない。
それで彼女は、今の自分が持つ唯一の武器を使うことにしたのだ。
「司祭さまのお使いでこの先の祠へ行かなければならないのですけれど……困りましたわ」
清楚な物腰に透ける科。
男達の鼻の下がこれ以上ない速度で伸びていった。
作戦成功の期待は、しかし次の瞬間に露と消えた。
麗しき聖女のご尊顔をもっと良く拝しようと近付いた男が、「あっ!」と声をあげたのだ。
「こいつ、“華の剣”だ!」
周囲の空気が一気に緊迫した。
ミシェルは素早かった。
彼女を捕えようと男が手を伸ばした時には、すでに間合いのはるか外まで飛びすさっていたのだ。
「やれやれ」
ミシェルは嘆息した。先程とは打って変わった態度と口調だ。
「有名になるというのも善し悪しですね。まさかうらぶれた山賊ごときにまで知られているとは」
「何だと」
激昂しかけて、男達は現在彼らが置かれた状況に思い至った。
「へへ」
山賊達のうちで頭立った男が、下品な顔をより一層下品に歪めた。
あの“華の剣”を、自分たちの自由にできるかも知れないのだ。
「あまり生意気な態度を取らないほうがいいぜ。――自分がどんな立場にいるかぐらい判るだろ?」
「そうですね――」
今やミシェルのアイスブルーの瞳は、強い光を湛えて山賊どもを見据えていた。
「わたくしに判るのは、武器一つ持たない婦女子にしか強気に出られない殿方がいる、ということですわ。――目の前に三人も」
侮蔑を込めて笑う。
「このアマ――」
今度こそ男達は激昂した。
次々と剣を抜き放つ。
勝負所だ。
ミシェルは腹を括った。
逃げることはたやすいが、それではレイフォルスに会えない。
それに、こんな剣呑な連中を野放しにしておくわけにもいかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!