第1話

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「あら」 ミシェルは嘲りを声に込めた。 「か弱い女ひとり、丸腰でなくばものにできないと言うわけですの? 大した勇者ですこと」 男達に動揺が走る。 もとより彼らは上等な輩ではないが、面と向かってそう言われれば嬉しかろうはずもない。 「さぁ、この“華の剣”を、戦って手に入れようという男気のある者はおりませんの!?」 男達はしばし顔を見合わせた。 数瞬の後、一振りの剣がミシェルの目の前に落ちる。 予備で持っていたのだろう。細身の剣、レイピアだ。 「取れ」 頭立った男が言った。 男達にはまだ余裕があった。 何と言っても三対一だし、相手を良く見ればただの細い娘っ子ではないか。 その美しさ故に剣を振るう姿は見事だろうが、それに惑わされ、手加減するやつも多かったことだろう。 この娘の武名には相当尾ひれが付いているに違いない――。 男達の心の動きを、ミシェルは正確に察知していた。 「彼女は見た目で得をしている」 陰に日向に、繰り返し言われてきたことだ。 だが、ミシェルは気にしたことはない。 戦いにおけるミシェルは徹底した現実主義者だ。 敵手が外見に惑わされてくれるなら、有り難くそれを利用する。 ――自分は多分可愛げのない女なのだろう。 ミシェルには自覚があった。 そんな自分をありのまま受け止め、認めてくれるのはアランだけだった。 だから生涯の伴侶は彼以外考えられない。 だからミシェルは、レイフォルスに会わずにはいられないのだった。 一剣を得たミシェルがまずしたのは、スカートの裾を切り裂くことだった。 こう長くては動き辛い。 「おお、サービスいいじゃねぇか」 「もっと上まで切ってくれよ」 男達が囃立てるが、ミシェルは揺るがない。 剣を手にした自分に何ができるか知っていたからだ。 「さぁいらっしゃい」 片手でレイピアを構え、ミシェルは言った。 「“華の剣”、お見せしましょう――」
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