第1話

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「いらっしゃい」 と言いながら、先に動いたのはミシェルだった。 鋭い出足で、一番腕が立ちそうな頭立った男に突っ掛ける。 腕力、体力では男には敵わない。 ならば大事なのは、常に先手を取り、ペースを掴んで離さないこと。 敵手に実力があったとしても、それを発揮させない「先の先」――それがミシェルの戦い方だった。 「うおっ」 機先を制された男は、レイピアの剣先を裂けるべく後ろに下がった。 狙い通りの動きを確認して、ミシェルは標的を変更する。 最も反応の鈍い、向かって左の男だ。 もう一人、向かって右の相手は、頭立った男が下がったため進路が塞がれた形になる。 これも狙い通りだった。 「このアマっ!」 左の男は剣を振りかぶった。 ミシェルに言わせれば、ようやくだ。 ミシェルの獲物は細身の剣。鋭いが、厚い革をやすやすと切り裂くほどではない。 防具の上から叩き付けてダメージを与える打撃力も期待できない。 ではどうするか――。 ミシェルは止まらなかった。 男の剣が完全に降り下ろされる前に、すれ違うように後方に抜ける。 鮮血が夕空に吹き上がった。 「――!」 声にならない悲鳴を上げたのは、男の方だった。 剣を取り落とし、手首を押さえている。 その指の間からは止めどなく血が溢れていた。 刃が防具に阻まれるのなら、「それ以外」を狙えば良い。 例えば手首だ。 他にも目や首筋、太股。各所の腱でも構わない。 剣術の試合や稽古ではない。馬鹿正直に防御を固めた部位を狙う必要はさらさらないのだ。 そして、ミシェルの攻撃は副次的な効果も睨んでのものだった。 「放っておいて宜しいの?」 ミシェルは言った。 すれ違いざまの一閃で男の手首――動脈に切り付け、そのまま駆け抜けることで男達との間合いを保っている。 「早く処置をしないと、すぐに失血で死に至りますよ」 頭立った男に目配せされ、残りの男が負傷した仲間の元へ駆け寄った。
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