第1話

18/28
前へ
/28ページ
次へ
レイフォルスと山賊達の距離が、徐々に縮まってゆく。 膨らみきった、緊張という名の風船を破裂させたのは“強面”の声だ。 「やれ!」 その叫びに呼応して、山へ続く道の先、木々の間から、黄色がかった光球が飛来した。 それが魔力のこもったものであることを、ミシェルは看破した。 と、見る間に魔法は高速で宙を飛び、“ピアッサー”に着弾した。 レイフォルスの体が、痙攣するように震える。 もしもの備えとして、山賊たちは魔導師を伏せておいたというわけだ。 魔力光の色からして、呪文は恐らく「衝撃(ショック)」か「麻痺(パラライズ)」―― それもなかなかの威力を備えたものであるように、ミシェルには思われた。 作戦の成功が山賊どもに安堵をもたらしたが、それは長続きしなかった。 少しだけよろめいたレイフォルスが軽く頭を振る。 そして顔を上げると、そこにはまだあの笑顔があった。 その唇はなお歌を口ずさみ続けている。 こうもあっさり抵抗(レジスト)されるのは計算外だったろうが、マードックの目はまだ森の中――魔導師の方を向いていた。 二の矢、三の矢を期待してのことだろう。 そうミシェルは見たが、魔法が飛んで来る気配はなかった。 「無駄だよ」 「歌い」終えたレイフォルスが告げた。 「大きいの(精霊魔法)は使えない――『まどろみの歌』で、このあたりの精霊さんには眠ってもらったからね」 「――『呪歌』か……」 絶望を込めて、マードックが呟いた。 “ピアッサー”が口ずさんでいたのは呪歌だったのだ。 最初にマードックがちらりと送った視線。 ミシェルが気付いたものを、レイフォルスが気付かないはずがない。 しっかりと対策を打たれたということだ。 だが、まさかレイフォルスが呪歌を、それも「楽譜」のない、「書かれざる歌」を歌いこなすとは。 「歌い手」としての能力も、彼は備えていることになる。 森の方から物音がした。 草木を掻き分けて、何かが遠ざかってゆく気配――魔導師に違いなかった。 だが、レイフォルスにはそれを追うつもりは無いようだった。 魔法が使えない魔導師などいつでも狩れる、ということだろう。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加