第1話

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“ピアッサー”の視線が、ミシェルの体を這い廻る。 「山賊さんたちもなかなか美味しかったけどね……」 青年の眼に悪意はない。 ただ、「食材」の品定めをしているだけなのだ。 「きみみたいに活きのいい人を『吸った』らどうなるだろ」 針の魔人の声に、俄に熱がこもった。 「ねぇ、どうなっちゃうんだろう!?」 突き出された針に、ミシェルは反応できなかった。 走馬灯がよぎる間も無くその先端は金髪の剣士に迫り――その脇をすり抜けた。 「ぐっ……!」 呻き声があがったのは、ミシェルの後方からだ。 振り返る眼に映ったのは、胸を貫かれた“強面”の姿だ。 剣を振りかぶっているところをみると、ミシェルの影からレイフォルスに襲いかかろうとしたのだろう。 それを見逃す“ピアッサー”ではなかったというわけだ。 「お止めください!」 生気を吸われてゆくマードックの体を、ミシェルは恐るべき針から引き抜いた。 干物になるのは免れたものの、地に倒れた時には山賊の頭目はすでに事切れていた。 「こんな……惨い」 死体を見下ろすミシェルの表情は痛ましさに揺れていた。 確かに彼らは悪人ではある。 だが、このやり方は生命に対する度を超した冒涜であるように、彼女には思われるのだった。 ミシェルは視線をレイフォルスに向けた。 その瞳に決意を込めて。 「自らの力を増すために、敢えてこのような殺し方を……貴方ほどの英雄が何故?」 「僕は英雄なんかじゃないよ」 即座にレイフォルスは否定した。珍しく強い調子だ。 「きみたちが勝手に言っているだけさ――僕は別にどっちでもいいんだ」 「どっちでもいい?」 「そう。『吸わせて』もらえるなら、“彼ら”でも“きみら”でも構わない」 ミシェルは絶句した。 「ただまぁ、悪者を相手にしたほうが角が立たないでしょ?」 そうして人々に害を為すものを吸い続けるうちに、「英雄レイフォルス」の名声が確立されたのだという。 我知らず、ミシェルはレイフォルスから距離を取っていた。 レイピアを握る手に力がこもる。
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