第1話

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「じゃあね」 特に何の感慨もなさげに、“ピアッサー”はミシェルの横を通り過ぎた。 ひょろりとしたその姿が、ゆっくりと森の中に消えてゆく。 それを見守りながら、戦慄が身のうちを駆け巡るのをミシェルは感じていた。 ミシェルの傍らを過ぎるとき彼が呟いた言葉―― 「良かったよ――昔馴染の子孫を殺さずに済んで」 ……彼女の曾祖母の名は、アルタベルテ・ミシェル・ドゥ・トゥアール。 屋敷にある肖像画を見る限り、髪の色――アルタベルテは赤毛だった――を除けばミシェルにそっくりだ。 そして、“お転婆アルテ”というあだ名は、娘時代に、それもごく親しい者にしか使われなかったという。 “ピアッサー”レイフォルス。 それは、「魔人」という冠語を用いられるべき存在なのかも知れなかった。 ――月はすでに中天に座し、夜空の支配権を主張している。 立ち尽くす金髪の剣士は、自らを呼ぶ声で我に帰った。 聞き間違えようのない声、アランだ。 他にも何人かいるようだ。 いきなり村を飛び出した彼女の身を案じて、探しに来たのだろう。 「わたくしはここです!」 答えて、ミシェルは恋人の許へと駆け出した。 再会の喜びに沸き立つ胸。 しかし、その片隅に巣くった不安は、しばらく消えることはなかったのだった――
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