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「じゃあね」
特に何の感慨もなさげに、“ピアッサー”はミシェルの横を通り過ぎた。
ひょろりとしたその姿が、ゆっくりと森の中に消えてゆく。
それを見守りながら、戦慄が身のうちを駆け巡るのをミシェルは感じていた。
ミシェルの傍らを過ぎるとき彼が呟いた言葉――
「良かったよ――昔馴染の子孫を殺さずに済んで」
……彼女の曾祖母の名は、アルタベルテ・ミシェル・ドゥ・トゥアール。
屋敷にある肖像画を見る限り、髪の色――アルタベルテは赤毛だった――を除けばミシェルにそっくりだ。
そして、“お転婆アルテ”というあだ名は、娘時代に、それもごく親しい者にしか使われなかったという。
“ピアッサー”レイフォルス。
それは、「魔人」という冠語を用いられるべき存在なのかも知れなかった。
――月はすでに中天に座し、夜空の支配権を主張している。
立ち尽くす金髪の剣士は、自らを呼ぶ声で我に帰った。
聞き間違えようのない声、アランだ。
他にも何人かいるようだ。
いきなり村を飛び出した彼女の身を案じて、探しに来たのだろう。
「わたくしはここです!」
答えて、ミシェルは恋人の許へと駆け出した。
再会の喜びに沸き立つ胸。
しかし、その片隅に巣くった不安は、しばらく消えることはなかったのだった――
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