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そうこうするうちに、夜が明けてきちまった。
そして、アルゼスの山から覗くお日様の光の下で、ミシェルさまの石化が始まったんだ。足下からゆっくりとな。
領主さまも、最後には娘の説得に回った。確かに形の上じゃダルマスは良い結婚相手だからな。
ああ、そうだ。もちろんミシェルさまは承知しなかった。なにしろミシェルさまだからな。
本当に好きな相手と一緒になれないなら、石になろうと構わない。
そう叫んだんだ。迷いのない、澄んだ眼をしてたなぁ。
その時だ。細っこい腕が伸びて、領主さまの手から羊皮紙をひったくった。
みんなが振り向いた視線の先にいたのは――そう、アランの馬鹿野郎さ。
奴の手は笑っちまいそうになるぐらい震えてた。顔なんか脂汗まみれでよ。
でも、その眼は。
ミシェルさまと同じぐらい澄んでいたんだよ。
その瞳に気圧されて、誰一人動けない。
そして「歌」が――ああ畜生、「歌」が聞こえてきちまったんだよ。
声は震えて掠れて、調子っぱずれでよ――でも、おれはあんな見事な歌は聞いたことがねぇ。本当さ。どんな吟遊詩人も、あれにゃあ敵うまい……
……「なりかわり」の効果はすぐに現われた。
ミシェルさまの石化は解け、今度はアランが足下から急速に固まっていった。
駆け寄るミシェルさまに、アランは何とか微笑みかけようとしたんだろうな、ほら、あの表情さ。
石化は止まらず、すがりつく幼馴染みに、アランは声をかけた。
「きみが無事で良かった」
ってな。
「愛してる」ぐらい言えば良かったのによ。まったく、最後まで気が利かねぇったら……
……そしてアランは石になり、ミシェルさまはその日のうちに髪を切り、教会に入った。
これが、「勇気の像」にまつわる物語さ。
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