第1話

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そうこうするうちに、夜が明けてきちまった。 そして、アルゼスの山から覗くお日様の光の下で、ミシェルさまの石化が始まったんだ。足下からゆっくりとな。 領主さまも、最後には娘の説得に回った。確かに形の上じゃダルマスは良い結婚相手だからな。 ああ、そうだ。もちろんミシェルさまは承知しなかった。なにしろミシェルさまだからな。 本当に好きな相手と一緒になれないなら、石になろうと構わない。 そう叫んだんだ。迷いのない、澄んだ眼をしてたなぁ。 その時だ。細っこい腕が伸びて、領主さまの手から羊皮紙をひったくった。 みんなが振り向いた視線の先にいたのは――そう、アランの馬鹿野郎さ。 奴の手は笑っちまいそうになるぐらい震えてた。顔なんか脂汗まみれでよ。 でも、その眼は。 ミシェルさまと同じぐらい澄んでいたんだよ。 その瞳に気圧されて、誰一人動けない。 そして「歌」が――ああ畜生、「歌」が聞こえてきちまったんだよ。 声は震えて掠れて、調子っぱずれでよ――でも、おれはあんな見事な歌は聞いたことがねぇ。本当さ。どんな吟遊詩人も、あれにゃあ敵うまい…… ……「なりかわり」の効果はすぐに現われた。 ミシェルさまの石化は解け、今度はアランが足下から急速に固まっていった。 駆け寄るミシェルさまに、アランは何とか微笑みかけようとしたんだろうな、ほら、あの表情さ。 石化は止まらず、すがりつく幼馴染みに、アランは声をかけた。 「きみが無事で良かった」 ってな。 「愛してる」ぐらい言えば良かったのによ。まったく、最後まで気が利かねぇったら…… ……そしてアランは石になり、ミシェルさまはその日のうちに髪を切り、教会に入った。 これが、「勇気の像」にまつわる物語さ。
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