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――夕暮れ・山へ向かう道――
“強面”・マードックは苛立っていた。
仲間と共に、旅人らしき若い男を取り囲んだ。
淡い茶色の、癖のある――というよりボサボサの――頭髪、ひょろりとした体付きのそいつは、アルゼスに向かうルートを歩いているというのにザック一つ背負っただけの軽装という間抜けぶり。
背中に差した剣が気になったが、身の丈近くもあるそれを振り回せるようにはとても見えない。
ちょろいカモのはずだった。
金目のものを持っているようにはとても見えなかったが、それはまだいい。
いざとなれば本人を売り飛ばしてしまえばいいのだから。
気に入らないのは、そいつの態度だった。
いかにも山賊然とした、武装した男達四人に囲まれ、金品を要求されているというのに、まるで怖じ気付く気配がないのだ。
それどころか、鼻先にかかるぐらい伸びた前髪からわずかに覗く瞳は、らんらんと輝いているではないか。
まるで何かを期待するかのように。
「だからな」
マードックは辛抱強く自分達の要求を繰り返した。
「大人しく金目のもんを寄越しな。でなきゃ武器を捨てて俺たちと来るか。抵抗するなら――」
「僕を斬っちゃう?」
身を乗り出さんばかりの勢いで、男が訊いてきた。
「ま、まぁそういうことになるな、だから大人しく――」
「良かったぁ」
遮って男は言った。全身で安堵の息を吐く。
子供じみた所作。というより、まるきり子供だ。
「おやつを置いて来ちゃったから、大分お腹を空かせてるんだよね」
脈絡のない男の言葉に、マードックたちはしばし呆気に取られていた。
すっかり男のペースに巻き込まれている。
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