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「はあ…」
疲労困憊
というように眉を潜める彼は、今日何度目かの溜め息を零した
白銀の長い前髪を手で掻きあげて手元の書類に目を通す
ここは死神組織派遣会社内部、とある書斎
無数に積み上げられ、無造作に放置された過去数百年分の報告書の束
その中のひとつを手にとり、スラスラと目を通すだけの作業を今日の出勤時間から延々と続けている
速読に長けている彼だが、いくら何でもこの量をわずか半日で読み解けるはずがない
もはや何かの辞典のような分厚さの紙切れが、まだあと2/3ほど残っているのだ
「……今更過去の魂の情報を求めて何になるのでしょう」
疲労からかぼそぼそと不満が口から溢れて、再び溜め息と落ちていく
彼が手にしているのは十年ほど前の回収報告書のリスト
天界では毎日、善良なる魂の裁判が行われている
わざわざ裁判にしなくとも、善良ならば人間か何かに転生でもさせればいいと思うのだが、
如何せん、天界にも天界の事情があるようだし
何より人間が増えれば死人も増える。
彼ら死神の仕事がやたらめったらと増えていくのは、生真面目な彼も悪寒に震えるほど御免被りたいことであった
天界の仕事はそれとは他に、地獄直送出来ない悪霊も彼らが管理している
地獄直送が出来ない悪霊は、厳重拘束で強制浄化。口がきけるようになれば天界の最高裁判にかけられるそうだ
本来ならば、悪霊の管理は閻魔の仕事だが
彼はどうも、ネジが抜けているというか…人としては信用しているが
……閻魔としては信用ならない危うさというか
基本的に大人しい性格に驚くほど不器用…儚げで隙だらけ。という印象が強い
簡単に寝首がかかれてしまいそうだが
どうやらそんなことはないようだ
そんな人が、人間が囁く拷問などをしているようにはとても思えない
東洋の人間が恐れおののくほど…いやかなり、彼は恐ろしい閻魔ではないのだ
勿論、地獄の長を任されるだけの実力はある神であるため
白銀の死神には知らない閻魔があるのかもしれないが
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