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「なぁアーテル」
「うん?」
自分の魔力の感触を確かめていた私は、不意に呼びかけられて目を開いた。
ギルドに設置された魔法陣は起動されるのを待つばかりで、リーダーはその中に立っている。
その緋い瞳を見上げると、彼はにっと笑った。
「この依頼を受けたあと、お前はなにをしたい?」
「なに、って」
「どこか出かけたいとか、報奨金で何々を手に入れたいとか」
「…………いや」
そういった『希望』といったものを、自分はめっきり失ってしまったような気がする。
わざわざ自分が動かなくとも、時間は経過していき、この体は生きていける。
魔力を無駄に保持しているこの肉体は、余剰魔力がエネルギーの代わりを担うことができ、何も口にしなくてもしばらく生き延びられることを私は知っていた。
「考えておけ。アグニアビスは働きすぎだとギルドリーダーのお達しだ。この依頼は直通だったが、これをこなしたら休暇を取れとさ」
「休暇か」
「いわゆる有給休暇、というやつだな。少ないが日給を出してくれるらしい」
つまり、先ほどの問は休暇の間にしたいことを意味していたようだ。
「私は控室で過ごすよ。読書でもして過ごそうかな」
「そうか、それもいいな。そのための本を買うのもありかもしれん」
リーダーはあらゆる本を読む。「知識は裏切らない」とは本人の談だが、図鑑から哲学書までなんでも読む「雑食」だ。控室にある彼の本を私も借りて手を付けてみたことがある。
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