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山沿いの道を1台の救急車が走っていた。
乗員は2名。腹が出始めた中年の男性と、若さが残る青年だ。それぞれ、コリンズとルークラフトと言う。
「金持ち連中の考えが分からねえ…」
コリンズが、シートに体を沈めて思い切り脱力する。目元の濃い隈とやつれた顔からは、彼の疲弊具合が見てとれる。
「真夜中の通報でこんな田舎町まですっ飛んできたがよ…ったく。二日酔い程度で呼ぶんじゃねーってんだ」
運転席でハンドルを握るルークラフトが同意する。「まったくですよ。救急車をタクシーかなんだと思ってるんでしょうねぇ」
彼もまた、疲労の色が浮かんでいた。新人時代のありあまる体力も、日ごろの激務でガンガン削られているのだ…。
消防署までの道のりをひたすらに走る。どちらも無言で、眠気覚ましに点けているラジオだけが騒がしい。
コリンズが船を漕ぎ始めた頃「せ、先輩…」ルークラフトが脅えた声で様子でコリンズを揺する。
眠い目をこすって、コリンズが尋ねる。「どうした?シカでも轢いたか?」
いつに間にか、救急車は路肩で停車していた。
「いや、そうじゃないんですけど…」ルークラフトが血の気の引いた顔で返した。
「今、光りませんでした?メーターから座席まで、ピカーッっと」「はぁ?」何のこっちゃと顔をしかめる。
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