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空を見上げる。
それは一点の曇りもない、美しいもの。
痛いとさえ感じる太陽の光を受け、目を細める。
俺は机に置かれる一枚の紙をゆっくりと折っていく。
手慣れた様子で、ただの紙は次第に姿を変える。
それを知らない人がいたら、きっと魔法だって思ってしまうのだろう。
ただの紙がこんなにも立派な紙飛行機になったのだから。
羽の部分や先端を軽く調整する。
これが不十分だと、満足に空を飛んでくれないからだ。
俺はまるで繊細な織物をするように、指先の神経に集中する。
「できた……」
俺のイメージ通り。
まさに思考を反映したように、それは形を成した。
ふと笑みがこぼれる。
形を成したことが、妙な達成感を俺に与えたのだ。
さあ、これは飛行機だ。
……なら、これからどうなるのか決まっている。
俺はゆっくりとそれを構える。
肩の高さよりも少し高く、そして力を籠めずに。
────飛べ……!
ゆっくりと手を放す。
窓の外──ずっと高くに広がる大きな空を目がけて。
俺は柔らかくそれを投げた。
ふわり、ふわり……
それはどこか不器用に揺れながら、空を舞う。
その不安な足取りは、まるで俺の心情を表しているかのようだった。
だが、それも次第に風の流れを掴む。
気流を読み、その羽がそれを捕らえていく。
肉眼では見ることのできないそれ。
やがて上昇気流となり、ふわりと紙飛行機は空高く上がる。
まるで鳥が飛び立つ瞬間の様に。
一種の感動を与えながら、それをゆっくりと流れていく。
あれほど青一色だった空。
そこに飛び込んだ白という一色。
異物に感じるそれも、やがて一つの色として世界に溶け込むのだろう。
「……もっと、もっと遠くに」
俺はそれに対して願いを込め、見送った。
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