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地面に落としていた視線を持ち上げ、テオはぽつりとこぼした。
「俺はな、基本的に面倒なことは好まないんだ」
独り言のようにそう言って、一歩踏み出す。ざく、とブーツの底が土を噛んだ。 そのままぐりぐりとつま先を擦り付けたところで、彼はやっと足をどける。
そこに散っていた赤い痕は、ブーツによってかき消されていた。
「だが──アイツに手を出したというなら、話は別だ」
緋色の瞳がぎらりと底光りした。 紛れもない怒りを灯した、焔のように。
テオの眼差しに縫い止められた相手が僅かに震える。
それを見て、初めて彼は笑みを口元に刻んだ。
「絶望なんぞしてくれるな。俺は久しぶりに気合いが入ってるんだからな。本気で相手してやるから、お前も死ぬ気でかかってこいよ」
その挑発とも言える言葉を聞くやいなや、相手は 高く跳躍して姿を消した。奇襲のつもりか、あるいは退避か。
先程までの笑みを跡形もなく消し去り、太刀の柄に手をかけながら、テオはぼそりと付け加えた。
「ま、どちらにしろ殺すけどな」
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