はじまりの物語

5/23
前へ
/23ページ
次へ
「ファスティ、また読んでるのかい?」 後ろから、投げかけられた言葉に反応し、振り返るとそこに居たのは、施設の先生だった。 「この絵本が、とても好きなんです。」 ファスティは施設の中で唯一、本を読める場所によく居る子供だった。 年頃になった今でも、それは変わる事がなく、一人静かに本を読むのが好きで、気づけばこの場所でその絵本を開いていた。 ここは、村の外れにある施設。 親の居ない子供たちが寄り添い生活をしている。 理由は様々だが、ファスティは赤ん坊の頃、雪の降る寒い夜、施設の前に捨てられていた。 「まだ、見えるのかい?」 その質問に、少し困った表情を浮かべながら微笑んだ。 なぜ、この絵本に惹かれるのか、答えは簡単なのかもしれない。 【精霊や妖精は人間の前から姿を消した】 物心ついた時から、当たり前のように彼女の瞳には映っていたのだ。 他の誰にも見る事の出来ないその姿を。 そのせいか、ファスティは孤独を感じる事はなく、むしろ一人で居る時間の方が好きなくらいだった。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加