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「ファスティ、また読んでるのかい?」
後ろから、投げかけられた言葉に反応し、振り返るとそこに居たのは、施設の先生だった。
「この絵本が、とても好きなんです。」
ファスティは施設の中で唯一、本を読める場所によく居る子供だった。
年頃になった今でも、それは変わる事がなく、一人静かに本を読むのが好きで、気づけばこの場所でその絵本を開いていた。
ここは、村の外れにある施設。
親の居ない子供たちが寄り添い生活をしている。
理由は様々だが、ファスティは赤ん坊の頃、雪の降る寒い夜、施設の前に捨てられていた。
「まだ、見えるのかい?」
その質問に、少し困った表情を浮かべながら微笑んだ。
なぜ、この絵本に惹かれるのか、答えは簡単なのかもしれない。
【精霊や妖精は人間の前から姿を消した】
物心ついた時から、当たり前のように彼女の瞳には映っていたのだ。
他の誰にも見る事の出来ないその姿を。
そのせいか、ファスティは孤独を感じる事はなく、むしろ一人で居る時間の方が好きなくらいだった。
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