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燃えている。
衣紗を愛し慈しんでくれた華那國が燃えている。
あちらこちらから響いて聞こえる断末魔。
それは、王の娘である衣紗を敬い、仕えてくれた華那國の民の最期の悲鳴だ。
血が――。
痛みと苦しみ、無念と、生への執着が渦巻く血が、どす黒く大地を染めていた。
華那國。
その名の如く美しかった集落は、突如として攻め込んできた殺戮者たちの狂気に侵され、もはやその面影すらない。
この惨劇の始まりは、巫女たちの言葉であった。
彼女たちは神の声を聞いたと言い、口々に女王の誕生を予言したのである。
ひとつの國のひとりの巫女が口にした言葉であったのなら戯言だと捨て置かれたはずだった。
ところが、伊都國の巫女、耶羅國の巫女、投馬國の巫女、そして他の國々の巫女たちがほぼ同時に同じ予言をしたため、極東の海に浮かんだ島に激震が走った。
しかも、巫女たちが予言した女王とは、ただの女王ではない。
数十の王たちを総べる唯一無二の存在になるのだという。
現在、この南北に長い島には数十の小さな國があり、國の数だけ王が立っていた。
そして、王たちは島の覇権を握るために数十年に及び、血で血を洗う争いを続けている。
巫女たちの予言は、この争いの終焉を告げるものであった。
そのため、多くの民はやがて訪れるであろう平和に歓喜したが、王たちの心情は複雑なものである。
ある國の王は女王を認めず、その命を奪おうとし、また別の王は女王の権威を我が物にしようと、まだ年若い王女を華那國から連れ去ろうとした。
そして今、華那國を滅ぼそうとしている耶羅國の王、千隼(ちはや)は、前者だ。
彼は予言の女王を護ろうとする華那國の必死の抵抗など物ともせず殺戮の限りを尽くしていた。
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