第12話

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そう梓は、校舎に入って行く美月の後ろ姿を見送りながら、肩を竦めた。 「梓ちゃん」 ふと呼ばれて振り向くと、曖昧な笑みを浮かべた遥と眼が合う。 彼も、美月が機嫌を損ねて校舎に入って行ったのを、解ってるようだ。 「……もしかしなくても、美月お姉のアレって……」 いつもの事なのかと、言いかけた梓を、遥は人差し指を口に当て制した。 そして笑顔を作り変え、彼は一歩後ろにいた理緒を紹介する。 「梓ちゃんは初対面だよね。この子、夕月 理緒ちゃん」 「夕月 理緒です。初めまして、えと……」 「桐生 梓です。よろしくお願いいたしますね、理緒さん」 はいと、朗らかに微笑んだ理緒の姿に、梓は美月とは全く正反対のタイプだと思った。 控えめで、裏表がなさそうな性格が滲み出ている。 「2年生なんだけど、空手が凄い強くてね。今の部長からも、次期部長を任したいって言われてるんだよね」 「い、いえ、そんな事ないです。私なんて、まだまだですから……」 そう謙遜し、頬を染めた理緒が、照れながらも彼を見上げ、華のような微笑みを浮かべた。 その表情は、慕う先輩に褒められて嬉しいと言う後輩の感情ではないと、彼女の表情から察した梓が、先程の美月の態度と合点が行く。 (……そうゆう事ですか) つまり最初から、美月の態度は嫉妬だ。 自分に対しても、理緒に対しても。 (まぁ、その嫉妬の意味は、どっちなのかは解りませんけどね……) 遥と理緒の会話する姿を見ながら、そう心の中で呟いた梓が、小さく肩を竦めた。 「それじゃ、今日も頑張って下さい。桐生先輩も、失礼します」 礼儀正しく、深々と頭を下げた理緒が、自分たちに満面の笑みを浮かべる。 そうして校舎へ向かって行く彼女を、遥も穏やかな笑顔で見送っていた。
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