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そう梓は、校舎に入って行く美月の後ろ姿を見送りながら、肩を竦めた。
「梓ちゃん」
ふと呼ばれて振り向くと、曖昧な笑みを浮かべた遥と眼が合う。
彼も、美月が機嫌を損ねて校舎に入って行ったのを、解ってるようだ。
「……もしかしなくても、美月お姉のアレって……」
いつもの事なのかと、言いかけた梓を、遥は人差し指を口に当て制した。
そして笑顔を作り変え、彼は一歩後ろにいた理緒を紹介する。
「梓ちゃんは初対面だよね。この子、夕月 理緒ちゃん」
「夕月 理緒です。初めまして、えと……」
「桐生 梓です。よろしくお願いいたしますね、理緒さん」
はいと、朗らかに微笑んだ理緒の姿に、梓は美月とは全く正反対のタイプだと思った。
控えめで、裏表がなさそうな性格が滲み出ている。
「2年生なんだけど、空手が凄い強くてね。今の部長からも、次期部長を任したいって言われてるんだよね」
「い、いえ、そんな事ないです。私なんて、まだまだですから……」
そう謙遜し、頬を染めた理緒が、照れながらも彼を見上げ、華のような微笑みを浮かべた。
その表情は、慕う先輩に褒められて嬉しいと言う後輩の感情ではないと、彼女の表情から察した梓が、先程の美月の態度と合点が行く。
(……そうゆう事ですか)
つまり最初から、美月の態度は嫉妬だ。
自分に対しても、理緒に対しても。
(まぁ、その嫉妬の意味は、どっちなのかは解りませんけどね……)
遥と理緒の会話する姿を見ながら、そう心の中で呟いた梓が、小さく肩を竦めた。
「それじゃ、今日も頑張って下さい。桐生先輩も、失礼します」
礼儀正しく、深々と頭を下げた理緒が、自分たちに満面の笑みを浮かべる。
そうして校舎へ向かって行く彼女を、遥も穏やかな笑顔で見送っていた。
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