第1話

2/29
前へ
/285ページ
次へ
山と海に囲まれた田舎町、細波町(サザナミチョウ) その小さな町で、彼らは明日に向かい生きていた。 「おはよー、海」 柔和な顔立ちと、無邪気な笑顔が似合う少年・池内 遥(イケウチ ハルカ)が、玄関前で待っていた幼馴染みに挨拶する。 「遅い」 「うきゅっ!?」 毒吐くなり、遥の額を指で弾いたのは、金髪の長髪を無造作に束ねた195㎝の長身で強面な能登山 海(ノトヤマ カイ) 幼い頃から兄弟同然で育った2人は、現在17歳の高校3年生。 一見、正反対の彼らだが、家も隣同士の親友である。 「痛~っ。海、その技やめてよ~……」 「ふん、朝から暢気な顔してるからだ」 ぼやいた遥を軽く鼻で笑った海が、そのまま彼を置いて歩き出す。 「うわ、酷いなぁ。置いてくなんて」 「貴様が遅いからだろ」 そんな会話をしながら、彼らは隣の市にある高校へ向かった。 一方、そんな息子たちを互いの家から見送っていた2人の母親が、苦笑まじりに呟く。 「全く、2人とも子供の頃から変わらないんだから」 背中までの髪をポニーテールにした、勝ち気そうな海の母親・能登山 皐月(ノトヤマ サツキ)がボヤく。 17歳で海を産んだ故か、また35歳の若さだ。 その隣で微笑むのが、皐月より少し年上の遥の母親・池内 博美(イケウチ ヒロミ) 「でも、あの子たちを見てると安心するわ……」 「そうだね。何年経っても変わらない絆(もの)があるって信じさせてくれる」 穏やかに微笑みあった彼女たちが、それぞれの家に戻って行く。 些細な擦れ違いが歪みを生み、傷つけあった過去。 それでも今があるのは、信じ続けたから。 大切な絆を。
/285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加