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山と海に囲まれた田舎町、細波町(サザナミチョウ)
その小さな町で、彼らは明日に向かい生きていた。
「おはよー、海」
柔和な顔立ちと、無邪気な笑顔が似合う少年・池内 遥(イケウチ ハルカ)が、玄関前で待っていた幼馴染みに挨拶する。
「遅い」
「うきゅっ!?」
毒吐くなり、遥の額を指で弾いたのは、金髪の長髪を無造作に束ねた195㎝の長身で強面な能登山 海(ノトヤマ カイ)
幼い頃から兄弟同然で育った2人は、現在17歳の高校3年生。
一見、正反対の彼らだが、家も隣同士の親友である。
「痛~っ。海、その技やめてよ~……」
「ふん、朝から暢気な顔してるからだ」
ぼやいた遥を軽く鼻で笑った海が、そのまま彼を置いて歩き出す。
「うわ、酷いなぁ。置いてくなんて」
「貴様が遅いからだろ」
そんな会話をしながら、彼らは隣の市にある高校へ向かった。
一方、そんな息子たちを互いの家から見送っていた2人の母親が、苦笑まじりに呟く。
「全く、2人とも子供の頃から変わらないんだから」
背中までの髪をポニーテールにした、勝ち気そうな海の母親・能登山 皐月(ノトヤマ サツキ)がボヤく。
17歳で海を産んだ故か、また35歳の若さだ。
その隣で微笑むのが、皐月より少し年上の遥の母親・池内 博美(イケウチ ヒロミ)
「でも、あの子たちを見てると安心するわ……」
「そうだね。何年経っても変わらない絆(もの)があるって信じさせてくれる」
穏やかに微笑みあった彼女たちが、それぞれの家に戻って行く。
些細な擦れ違いが歪みを生み、傷つけあった過去。
それでも今があるのは、信じ続けたから。
大切な絆を。
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