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†
彼らの住む小さな田舎町。
過疎化が進む海と山に囲まれた穏やかな町・細波町は、バスは廃止となり、電車も1日に5本あれば良い程の辺鄙さ。
だけど、子供の頃はよく仲間内で海岸や砂浜で遊んでいた。
太陽に反射した光が水面を輝かせていたのが、今も瞳を閉じれば浮かぶ色褪せない懐かしい思い出。
「遥、ついたぞ」
「!」
海沿いを走る電車の窓から見える風景に、つい物思いに耽っていた遥は、海の声で高校のある倉妓駅についた事に気付く。
細波駅から4駅向こうの倉妓市は、細波町より栄えており、駅も朝の通勤通学ラッシュで混み合っていた。
「ガキの頃の事、思い出してたのか」
混み合う電車を降り、改札口を抜けた海が何気なく訊ねた為、遥は困ったように笑い応える。
「最近、よく見るんだ。5年前の夏の夢を」
「……俺もだ」
静かに呟いた海が、何処か遠い目をして言葉を続けた。
「あの頃、俺たちは何度も擦れ違い傷つけあった。それでも、今も続いているよな……」
自分たちの間に紡がれる絆の糸。
「……繋がってるよ、きっと。大丈夫」
絆と言う糸は解れ易い。
もしも、その糸が切れてしまった時、自分たちは紡ぎ直せるのだろうか。
懐かしい思い出の夢に、何故か嫌な予感を覚えつつ、2人は駅を出た。
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