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「——帰る場所は、ありません」
頭をフル回転させて出てきたのはそんな言葉だった。
嘘ではない。この時代に私の帰れる場所なんて存在しないのだから。
どんな言葉が返ってくるのか不安に思い、彼の方を見ることができず目の前の囲炉裏をじっと見つめる。
「……じゃあ、俺んとこ来るか!」
「へ?」
大胆発言に驚いて男の人を見ると、何を考えているのか分からない——いや、何も考えていなさそうな笑みを浮かべていた。
「あー、俺のとこっつーより俺がお世話になってるとこ、だな!」
「ちょっ、待っ」
「よし! そうと決まれば即行動だ! ぐずぐずしてられねぇな!」
彼は勝手に話を進めながら立ち上がった。
「とりあえずお前それ脱げ!」
「え、は⁉︎ いやいやいや服脱げませんて!」
「さっきみてぇに襲われてぇのか? その格好だとまた捕まるぞ」
「で、でも、他に服なんて」
そこで私はあることを思い出した。
「わ、分かりました、着替えます! 着替えるから外で待っててください!」
「わーった! わーったから押すなって」
男の人を出口に押しやり、音を立てて扉を閉めた。
小さくため息をつき、持っていた紙袋を開く。
中には抹茶色の着物。肌襦袢なども全て揃っている。幸い着付けの仕方も分かる。
まさかこんなところで気に入らなかった着物が役立つとは。
私はため息をついてからリュックを下ろし、制服を脱いだ。
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