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(やっぱり、ヘタ・・・)
はあ、と溜息をつく。部室には私だけ――――
今から半年ほど前、私・楠木玲は小さな小説賞に応募した。
私 は、という訳ではなく部全体で応募したのだけれど。
結果は最終選考止まりだった。
部員の半数近くがその手前で落 ちたことを考えれば良い結果かもしれない。
でも、
「やったああああ!」
同じクラスの親友・沙雪が優秀賞をとった。
沙雪は、自信作と は言っていたけれど、
「秘密」と言って見せてくれなかった。
そして、最終選考作品と受賞作がのっているまとめ誌を見て、 はっきり分かった。
私の小説と沙雪の小説はあまりにも「違う」ってことを。
私の作品だってそこに載っていたけど、言えなかった。
「違 い」に、自信を失くしたんだ。
だから、私は最終選考の前で落ちた、って。
そう言った。
PN だったから、ばれないだろうし――――。
「楠木?」
ではなかった。一気に現実に引き戻された。
後ろを振り返る。
「何してんだよ。とっくに活動時間、終わってんぞ。」
ぶっきらぼうにいったのは、同じ文芸部員の岸辺爽太。
頭がよ くて、黒ぶちめがねをかけている。
一応幼馴染にあたる。
「またそれみてんのかよ。」
爽太は苦笑いしながら「でも、」と付け足した。 「それ、すごくいいの載ってるよな」
そう言ってぱらぱらとページをめくり、指を指したのは―――
「卒業 斎藤結衣」
――――私の書いた小説。
「卒業」は、その名前の通り、卒業をテーマにした小説だ。
小 学校を卒業して、中学校がばらばらになってしまう仲良し四人 組の友情モノ。
「これ、最終選考でとまっちゃったけど、俺はすごく良かった と思う。絆が伝わってくるっていうか」
(ウソ・・・)
この作品を他の人に褒められたことはなかった。
前それとなく 沙雪や部員に聞いた時も反応は芳しくなかったし…。
(また、小説書こうかな)
止まっていた思いが加速し始めた。
「・・・ありがとう」
「? 何でお前が言うんだよ?」
自分を守るための嘘。
それは、一歩踏み出すための大切な自信になった。
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