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「明日香……怒ったの?」
「―― なんてね」
明日香はペロリと舌を出すと、戸惑った様子の翔の肩に笑いながらもたれかかった。
高原明日香は私立聖花学園高校三年。
両親は亡く、他に身寄りもない。
黒いストレートのロングヘアー。
小柄で童顔・クルクルした目・引き締まった桜貝のような唇。
まあまあ可愛いのに目立たないのは、物静かな性格のためだ。
しかし翔に出会う以前は引っ込み思案だった明日香も、少々人とは違った経験をしたここ一年余りで見違えるほど積極的な少女へと変身していた。
「ホントはね、寝顔、可愛いなと思って見てたの。ちょっと得しちゃった気分」
肩を竦めた明日香が、心なしか恥ずかしそうに視線を落とした翔に続ける。
「でも翔、この頃疲れてるみたい。大丈夫?無理しなくて良かったのに」
「大丈夫。無理なんかしてないよ。明日香と一緒なら元気になれるから――」
二人は恋人同士。
いや、そんな簡単な言葉では表せない何かで繋がっていた。
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