人面花

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 会社の長期休暇を利用してまで、三人がこのジャングルに  足を踏み入れた理由は一つだった。  それは、一輪の花。  ただしそれは研究機関、もしくは趣味の悪い資産家たちがこぞって  手に入れようとする珍品。  花弁の中に人の顔が現れるという伝説の花、人面花が目的だった。  この広大なジャングルのどこかに生息しているという情報を数日前、  デレクが手に入れてきた。それを聞いた友人のアレックスとジェフは、  報酬の山分けと引き換えに手伝いを申し出たのだった。  一つでも見つけて持ち帰れば巨万の富が約束されるであろう花。  それを探しに遥々やってきたのだ。 「今日はここまでにしよう」  日が傾き、辺りの暗さが更に深まる。それを見てデレクは提案した。  疲労も随分と溜まっている。これ以上の捜索は危険だと判断したからだった。 「おい、今日も見つからなかったじゃねぇか。こんな調子で見つかるのか?」  とアレックス。 「だからといって、夜に動くわけにもいかないだろう。明日捜索する場所は、  今日の草原よりもいくらか可能性が高い。それを信じることだな」  そう言って来た道を引き返していくデレク。  危険に聡いデレクはいつの間にか三人のリーダーのような位置に  収まっている。反対しようにも、その判断が正しいことは明白であった。  アレックスはそれに舌打ちをして渋々後をついて行く。  ジェフは特に意見もないようで、最後尾から二人に従い歩いた。  夜のジャングルは人間がいていい場所ではない。毒グモ、毒蛇、毒カエル。    それらの危険生物が本格的に動きはじめる。  弱肉強食の夜の世界では、安穏に慣れ切ってしまった今の人が  生きることは極めて難しい。  食うか食われるか。突き詰めた単純さが、裸の人間の脆(もろ)さを  刃として喉元に突きつける。  生と死の入り混じった世界。  三人の足跡を追うかのように、その気配が背中を押していく。  ジェフはふと振り返った。  密林の暗闇に、得体の知れぬ動物の影が映りこんだような気がする。その影に怯え、  ジェフは先行く二人を駆け足で追った。
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