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そろそろ滝が見えてもおかしくは無い。野生動物などの声に紛れているが、
耳を澄ませば微かに水音が聞こえてくる。
それは即ち、人面花がどこにあってもおかしくはないということだった。
もちろん、デレクの仮説があっていればの話ではあるが。
「待て」
前方を行くアレックスが不意に立ち止まり、腕を上げて後方の二人も
静止させる。
「なんだ?」
デレクが覗き込み、アレックスの視線の先にあるものを確認する。
「アナコンダ……それも小さい方か。気付かれると厄介だな」
落ち葉と木の根に紛れるようにして、蛇が体を潜めていた。小さいといっても、
二~三メートルはあるだろう。
「どうする?」
アレックスは音を立てないようにして背後のデレクに聞いた。
「迂回しよう。……まさかこんな土の多い場所で会うとは思ってもいなかったが、
充分に厄介な生物だ」
三人は少し引き返し、大きく円を描くようにして再度滝を目指す。
もしかしたらあのヘビは、その滝つぼからここまで移動してきたのかもしれない。
浮かんだ思考を吹き飛ばすように、突如として開ける視界。
鼻腔(びこう)に広がる水の匂い。
足下には手ごろな大きさの石が犇(ひしめ)いている。
それをジャリと踏みつけ、アレックスは一歩前に出ると言った。
「ここか……けっこうデカイな」
見上げる眼差しの先には小さな瀑布(ばくふ)が、轟々と水煙を立てている。
瀑布の麓から尾を引くように、流れの緩やかな川が三人の視界を横切る。
間近で滝つぼを眺めると、見えない引力に体を引っ張られる感覚があった。
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