人面花

9/16
前へ
/16ページ
次へ
 そろそろ滝が見えてもおかしくは無い。野生動物などの声に紛れているが、  耳を澄ませば微かに水音が聞こえてくる。  それは即ち、人面花がどこにあってもおかしくはないということだった。  もちろん、デレクの仮説があっていればの話ではあるが。 「待て」  前方を行くアレックスが不意に立ち止まり、腕を上げて後方の二人も  静止させる。 「なんだ?」  デレクが覗き込み、アレックスの視線の先にあるものを確認する。 「アナコンダ……それも小さい方か。気付かれると厄介だな」  落ち葉と木の根に紛れるようにして、蛇が体を潜めていた。小さいといっても、  二~三メートルはあるだろう。 「どうする?」  アレックスは音を立てないようにして背後のデレクに聞いた。 「迂回しよう。……まさかこんな土の多い場所で会うとは思ってもいなかったが、  充分に厄介な生物だ」  三人は少し引き返し、大きく円を描くようにして再度滝を目指す。  もしかしたらあのヘビは、その滝つぼからここまで移動してきたのかもしれない。  浮かんだ思考を吹き飛ばすように、突如として開ける視界。  鼻腔(びこう)に広がる水の匂い。  足下には手ごろな大きさの石が犇(ひしめ)いている。  それをジャリと踏みつけ、アレックスは一歩前に出ると言った。 「ここか……けっこうデカイな」  見上げる眼差しの先には小さな瀑布(ばくふ)が、轟々と水煙を立てている。  瀑布の麓から尾を引くように、流れの緩やかな川が三人の視界を横切る。  間近で滝つぼを眺めると、見えない引力に体を引っ張られる感覚があった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加